複合化・複雑化している病態を総合的に治療できる場とそれを実践できる医師
自身がコミットした患者の治療に携わるに際して、患者の病態と全身所見を詳細に捉え、総合的に評価し判断する必要があります。そのためには、医学的知識と経験の裾野を広げ続けることがまず大切です…
心臓血管外科 教授
齋木 佳克
当科では、大動脈瘤に代表される大動脈疾患、弁膜疾患、虚血性心疾患、先天性心疾患、成人先天性心疾患などを治療対象としています。
更には重症心不全患者に対する補助人工心臓装着、心臓移植と高度先進医療に向けて
質の高い医療を提供できるよう日々努力を続けています。
1980年以降、先天性心疾患に対する手術治療が非常に発達し、多くの方が手術で回復し、成人まで到達されております。しかし、成人になっても、外来での定期的な通院、場合によって、お薬が必要になる患者もいます。また、再手術が必要になる患者もいます。一方で成人になってから先天性心疾患が見つかる方もいます。成人になってから見つかる病気として、部分肺静脈還流異常、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症などの病気があります。
先天性心疾患の発生頻度は新生児の約1%です。そのうち約1/4の患者さんはチアノーゼや心不全のため生後1ヶ月以内になんらかの手術が必要となりますが、大人になってから不整脈や心不全症状が現れて初めて心臓病に気づかれる場合もあります。先天性心疾患には単純なものから複雑なものまで、また肺への血流が少ないものから過剰なものまでさまざまな病型があります。これらの心奇形のなかには手術しなくても生活に支障のない病気もありますが、多くの患者さんは手術が必要になります。先天性心疾患の手術は1950年代に始められ、その後半世紀の間につぎつぎと新しい手術法が開発されて現在では非常に複雑な疾患も手術治療が可能となってきました。先天性心疾患の手術にあたっては、患者さん一人一人に合わせて適切な時期に適切な手術を行うことが大切です。最近では胎児期や出生後まもなく心奇形の診断がついた場合はその病型により生後いつごろどのような手術を行うかをスケジュールする治療方針がとられ、手術成績も安定してきました。近年の先天性心疾患の治療成績向上には心臓超音波検査や心臓カテーテル法などの診断技術の進歩と手術前の患者さんの心不全や低酸素状態を改善する内科的治療法の向上が大きく貢献しています。さらに、手術そのものも、手術方法の改良や人工心肺の改良など着実に進歩を続けています。
心臓自身を養う動脈のことを冠動脈(かんどうみゃく)と言います。冠動脈の一部が狭くなり、血液のめぐりが不十分な状態になると狭心症という病気が発症します。胸痛や胸部不快感、肩の痛み、みぞおちの痛みなどの症状が一時的に起こります。少し休めば軽快することが多いのですが、この時点で医療機関を受診することが早期発見につながります。最近になって急に症状を自覚するようになった、以前より頻度が増えた、休んでいても治まりにくくなった、などは症状の進行が疑われる状態であり、すぐに循環器内科を受診する必要があります。不安定狭心症や急性心筋梗塞(これらをまとめて急性冠症候群といいます)を発症すると症状は治まらず、不整脈や心不全が併発することもあります。こうなると、直ちに循環器専門施設への入院が必要となります。
動脈は心臓から心拍ごとに送り出される血液を全身に運ぶための血管系です。大動脈は大動脈弁を介して心臓(左心室)に接続している人体で最も太い血管であり、大動脈から血管が分枝し体の隅々まで血液が行き渡るようになっております。大動脈の壁は3層構造をとっていて、血管の内腔側から内膜、中膜、外膜と呼ばれ、間には内弾性板、外弾性板という弾性線維の集まりが含まれています。これらの構成成分により、動脈は強さと柔軟さを兼ね備えています。 大動脈壁が加齢に伴う変性や炎症により動脈硬化をきたすと、壁が脆くなり大動脈瘤を生じたり、内膜や中膜が何らかの機序により突然破綻して中膜が裂けてゆき大動脈解離が発生したりします。
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。ポンプの機能を果たす原動力は心筋という筋肉の収縮で、これにより心臓は収縮し、多量の血液が全身に送り出されます。心臓内には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、各部屋の出入り口には血液が一方向にのみ流れるように4つの弁(三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁)があります。血液は全身を回って酸素を供給し、二酸化炭素を取り込んだ後に右心房に帰って来ます。右心房から右心室へ流れ込んだ血液は肺に送られ、肺で二酸化炭素を放出し、酸素を取り込んだ後に左心房に入り、左心室を経て全身に送り出されます。この一連の動きは、休むことなく1日におよそ10万回も繰り返されていますが、この4つの弁の働きにより心臓は効率よく全身に血液を送り続けることが出来るのです。
心臓は血液を全身に送り出すポンプの働きをしています。この心臓のポンプ機能が低下すると、全身に充分な血液を送ることができなくなり、息切れ、疲れやすいなどの症状がでます。(心不全)また血液の渋滞(うっ血)も生じ肺うっ血による呼吸困難や全身のむくみが生じます。この心臓のポンプの働きが低下した結果として起きる身体の状態を心不全と云います。様々な心臓病が心不全の原因となり、心臓病以外でも高血圧症など心不全の原因となることがあります。心臓の働きは急に低下することもありますが(急性心不全)、徐々に働きが低下すること(慢性心不全)もあり、治療に対する反応もそれぞれ異なります。
正常の心臓は1分間に凡そ70回、1日10万回規則正しいリズムで拍動しています。心臓の洞結節というところの機能によって心臓のリスムは刻まれ、心房、心室まで刺激が伝わりますが、様々な原因により洞結節のリズムが低下したり(洞徐脈)、止まったり(洞停止)、また洞結節のリズム正常でも心房への中継がうまく行われなくなると(洞房ブロック)、脈拍数は低下します。このように洞結節の機能低下により脈拍数が低下する病気を洞機能不全症候群といいます。ふつう洞結節以下の経路の殆どすべての場所に、リズムを刻む予備の機能があり、万一洞結節が停止しても、心臓がとまらない安全な仕組みになっています。したがって心臓が長く停止したり、極端な徐脈が生じるのは、洞結節だけでなく、予備の能力の機能が低下していると考えられます。