先天性心疾患

先天性心疾患の発生頻度は新生児の約1%です。そのうち約1/4の患者さんはチアノーゼや心不全のため生後1ヶ月以内になんらかの手術が必要となりますが、大人になってから不整脈や心不全症状が現れて初めて心臓病に気づかれる場合もあります。先天性心疾患には単純なものから複雑なものまで、また肺への血流が少ないものから過剰なものまでさまざまな病型があります。これらの心奇形のなかには手術しなくても生活に支障のない病気もありますが、多くの患者さんは手術が必要になります。先天性心疾患の手術は1950年代に始められ、その後半世紀の間につぎつぎと新しい手術法が開発されて現在では非常に複雑な疾患も手術治療が可能となってきました。先天性心疾患の手術にあたっては、患者さん一人一人に合わせて適切な時期に適切な手術を行うことが大切です。最近では胎児期や出生後まもなく心奇形の診断がついた場合はその病型により生後いつごろどのような手術を行うかをスケジュールする治療方針がとられ、手術成績も安定してきました。近年の先天性心疾患の治療成績向上には心臓超音波検査や心臓カテーテル法などの診断技術の進歩と手術前の患者さんの心不全や低酸素状態を改善する内科的治療法の向上が大きく貢献しています。さらに、手術そのものも、手術方法の改良や人工心肺の改良など着実に進歩を続けています。

宮城県内では当院と宮城県立こども病院にて先天性心疾患に対する手術を行っています。当院は東北大学関連修練施設協議体を介して宮城県立こども病院と密接に連携し、宮城県やその周辺地域の小児心臓外科医療の発展に力を注いでいます。宮城県立こども病院には東北大学医局から医師を派遣しており、人的交流や両病院間の情報交換により、技術の向上など最良の医療を提供できるように体制を整えています。また、心臓血管外科専門医の取得を目指す専攻医を修練の一環としてローテートさせています。

代表的な先天性心疾患
  • 動脈管開存症(PDA)
  • 心房中隔欠損症(ASD)
  • 心室中隔欠損症(VSD)
  • 心内膜床欠損症(ECD,AVSD,CAVC)
  • 純型肺動脈狭窄、閉鎖症
  • ファロー四徴症(TOF)
  • ファロー四徴症兼肺動脈閉鎖症(TOF/PA)
  • 尖弁閉鎖症
  • 単心室症(内蔵錯位症候群)
  • 大動脈縮窄・離断症
  • 両大血管右室起始症(DORV)
  • 完全大血管転位症(TGA)
  • 総肺静脈還流異常症(TAPVD)
  • 左心低形成症候群(HLHS)
術前状態から手術まで(注意点、合併症、人工心肺など)

<症状と所見>
ヒトの血液循環は出生を契機に大きく変わります。つまり、それまでの母体に依存していた胎児循環から自己の心臓がポンプとなる肺循環と体循環からなる大人の循環になるのです。その際、心臓に先天的な疾患のある場合はこの肺循環、体循環のどちらかあるいは両方に問題を起こして症状を呈してきます。心不全による多呼吸、哺乳力低下やチアノーゼ(低酸素)が主な症状ですが、ときに急性ショック状態で発症する場合もあります。特に新生児および乳児に重篤な症状を呈する患者さんでは、早期診断早期治療が救命のために必要になります。

<心不全>
心不全とは身体の代謝に必要とされるだけの酸素や栄養を運搬する心拍出量が出せない心臓の状態であり、代償作用としての頻脈や心拡大のほか成長障害をきたします。また肺うっ血を伴うと多呼吸や呼吸困難を呈してきます。新生児および乳児期では哺乳するために多くのエネルギーが必要となるため、哺乳時に頻呼吸や発汗の症状が悪化し、十分なミルク摂取ができず体重増加が不良になります。

<チアノーゼ>
チアノーゼは動脈血中の還元(酸素化されていない)ヘモグロビンが5g/dl以上に増加したときに口唇や爪床の色が紫色がかってみえる現象で、先天性心疾患のうち心臓内で静脈血が動脈血に流入する(右-左シャント)疾患(完全大血管転位症やファロー四徴症、肺動脈閉鎖症など)で認められます。深刻な症状として呼吸困難、チアノーゼ増強、痙攣、意識消失などを伴う発作をおこすことがあります。これを無酸素発作(Anoxic Spell)といいチアノーゼ性心疾患のうち右室流出路筋性狭窄による肺血流減少を起こす疾患にみられ、緊急治療が必要となります。

<理学的所見>
心不全やチアノーゼの症状が現れた患児の診察には視診、触診、聴診などによる理学的所見をとることが大切です。聴診では心音の異常、特に心雑音を聴取することが重要となります。心雑音においては、その性質、最強点、放散の方向などを把握することが心疾患の診断に求められます。

検査

<心電図>
心疾患の種類により、左室肥大や右室肥大、左軸偏位、右軸偏位がみらます。小児では正常でも心電図上生後早期は右室負荷となるため心室肥大の診断基準は年齢により違ってきます。

<胸部X線>
胸郭内の心陰影の位置で右胸心などの内臓位置異常の診断ができます。心陰影の拡大は心臓の容量負荷を示し、心臓内で動脈血が肺循環に流れ込む左-右シャント疾患が疑われます。また特異的な心陰影型を呈することにより推測される代表的心疾患もあります。肺血管陰影の増強あるいは減少により肺血流が過剰であるか減少しているかが推測され、また肺うっ血像は肺血流過剰か肺静脈閉塞の所見です。

<心臓超音波検査>
心臓超音波検査は現在最も有効な先天性心疾患の診断手段となっています。M-モード法、断層法、カラードップラー法があり心臓の立体構造の基本になる右心室、左心室、右心房、左心房の4つの部屋、大動脈、肺動脈の2つの大血管、上大静脈、下大静脈、肺静脈の位置やサイズ、そのつながり方が把握でき、心室中隔欠損や心房中隔欠損孔の位置や大きさなど心臓形態をほぼ正確に診断できます。また、心室の収縮能力の評価、弁の逆流や狭窄の程度、右心室や左心室の血圧推定などの機能的な評価も行うことができ、患児へ及ぼす侵襲が少ないため、手軽に繰り返し検査をすることができます。

<心臓カテーテル検査法>
おもに大腿部の動静脈からカテーテルを挿入して心臓に到達させ、心臓の左右心房、左右心室の圧測定や心拍出量測定などを行う検査法で、肺血管抵抗値や左-右シャント、右-左シャント量の計測値をもとめることができます。また造影剤を注入して心臓血管造影を行うことで心腔や大血管の構造、相互関係などの形態診断や心室機能評価も可能であり、心疾患診断や手術適応決定に重要な検査です。しかし検査自体が侵襲を伴うため、心臓超音波検査やCT、MRIなど侵襲の少ない検査で手術に必要な情報が十分得られる場合は、かならずしもカテーテル検査を行わずに手術を施行するようになってきています。

<人工心肺>
先天性心疾患、成人先天性心疾患に対する心臓手術は、人工心肺による体外循環を用いる手術と、体外循環を必要としない手術があります。当然のことながら心臓手術の進歩には人工心肺機器と技術の進歩が大きく貢献してきました。人工心肺は上下大静脈や右心房から脱血した血液を貯血槽に導いたのち人工肺を通して酸素化して動脈に送血するシステムで、血液が回路と患者の動静脈間をローラーポンプや遠心ポンプの駆動により循環します。人工肺としてこれまで気泡型と膜型肺が使われてきましたが、近年は膜型肺の性能向上により小児心臓手術領域では主に膜型肺が使われています。また、小児心臓手術、先天性心疾患領域でも無輸血手術を積極的に導入してきており、人工心肺回路の充填量の軽減化が進んできています。特に複雑な手術の場合、以前は体温を20℃程度まで冷やして一時的に体外循環を停止する超低体温循環遮断法が用いられていましたが、脳や他の臓器機能保持の意味から現在は、28℃程度の中等度低体温で循環停止を行わない工夫した術式が用いられています。心臓手術中の心筋保護とくに心停止時の心筋保護に関しては多くの研究がなされ、適切な心筋保護液やその投与法が考案されてきました。これらの人工心肺に関する進歩により、ほとんどの複雑心奇形の手術の体外循環が可能となっています。

成人先天性心疾患手術

成人先天性心疾患手術において、最も多いのが、ファロー四徴症や両大血管右室起始症根治術後の肺動脈弁閉鎖不全症です。右室が拡大し、右心不全を呈します。最適な時期に手術を行うことで、右室の機能回復を図ります。手術は肺動脈弁を人工弁に置換する手術を行います。通常、手術してから3週間前後で退院できます。
そのほか、フォンタン手術後の不整脈や心不全などに対する再フォンタン手術、房室弁機能不全に対する弁形成、人工弁置換や、部分肺静脈還流異常、心房中隔欠損、心室中隔欠損に対する根治術などを行っています。

手術を終えて

術後を含めた心臓病患児の就学にあたって、もっとも問題となるのはやはり運動であると言えましょう。小学校に入ると運動制限の目安として管理指導表が用いられることが多く医師の判断の元、状態に応じた運動制限を行ないます。
心臓病の種類が同じでも術後の遺残症や心機能の程度によってそれらの制限の範囲も相違します。当院では成人先天性心疾患外来も併設しております。手術を終えてからも、外来で経過を見ることで、その後の長い人生をより快適に生活できるようにサポートしていきます。
成人期での手術後は病気の種類にもよりますが、1−2ヶ月後にはデスクワーク程度の仕事なら就労可能です。基本的には手術後3ヶ月を目安に、行動制限なく、仕事や生活ができます。定期的な外来通院を行いながら、心臓の機能を良い状態に保てるように管理していきます。