脈が遅くなる不整脈

正常の心臓は1分間に凡そ70回、1日10万回規則正しいリズムで拍動しています。心臓の洞結節というところの機能によって心臓のリスムは刻まれ、心房、心室まで刺激が伝わりますが、様々な原因により洞結節のリズムが低下したり(洞徐脈)、止まったり(洞停止)、また洞結節のリズム正常でも心房への中継がうまく行われなくなると(洞房ブロック)、脈拍数は低下します。このように洞結節の機能低下により脈拍数が低下する病気を洞機能不全症候群といいます。ふつう洞結節以下の経路の殆どすべての場所に、リズムを刻む予備の機能があり、万一洞結節が停止しても、心臓がとまらない安全な仕組みになっています。したがって心臓が長く停止したり、極端な徐脈が生じるのは、洞結節だけでなく、予備の能力の機能が低下していると考えられます。

心房と心室間にある房室結節やそれに続くヒス束に何らかの原因で障害が起きると、洞結節のリズムが正常に心室に伝わらなくなります。例えば2回に1回しか心房から心室へ伝わらなくなると、毎分60回の心房の興奮が、心室に伝わるのは毎分30回となり、高度の徐脈を生じます。重症になると心房のリズムが全く心室に伝わらなくなり(完全房室ブロック)、場合によっては生命に危険を生じる事もあります。

植込み型心臓ペースメーカーは、1960年代に実用化され、急速に小型化され、機能面でも改良が加えられました。脈が遅くなる不整脈に対する心臓ペースメーカーの植込みは、薬物療法など他の治療方法には及ばない優れた治療方法と広く認められています。心臓ペースメーカーを植込んだ方が良いかどうかは症状の性質、強さと脈が遅いこととの因果関係を調べることが重要です。洞機能不全症候群に対しては現在では以下のような基準で心臓ペースメーカーの植込みが行なわれています。

則ち、失神、痙攣、眼前暗黒間、目眩、息切れ、易疲労感などの症状、あるいは心不全があり、それが洞機能の低下に基づく除脈によるものであることが確認された場合です。

また、房室ブロックに対しては、ブロックに起因する除脈による明らかな臨床症状がある場合に心臓ペースメーカーの植込みが行なわれます。

脈が不規則になる不整脈

心臓は通常は規則正しいリズムで働いていますが、心房細動という状態になると心臓のリズムは不規則になります。心房細動になると心臓の機能そのものが低下し、心房に血液が淀むため血液が固まってしまい、脳などの重要な臓器の血管を閉塞してしまう血栓塞栓症という病気を併発し易くなります。心房細動は年齢とともに増加しますが、心臓弁膜症などの心臓の病気も心房細動の発生と関係しています。心房細動は先ず、薬物で治療しますが、最近では手術によって心房細動を治療する方法が開発されています。当科ではこの手術によって約8割の心房細動が治癒しています。本邦では心房細動の手術を施行するのは弁膜症の手術と同時に行なう場合にほぼ限られており、心房細動を直すだけの目的で手術を施行することは稀です。最近では外科手術で治癒する心房細動と、手術で治することが期待できない心房細動について少しずつ分かってきていますが、心房細動という不整脈は非常に複雑な病気で、まだその発生機序について多くのことが不明です。今後の研究が期待されます。

重篤な不整脈

不整脈のなかで最も重篤なのが心室頻拍、心室細動です。これらの不整脈では急激に血圧が低下したり、心臓のポンプ機能が直ちになくなる心停止となります。心停止となった場合は脈拍も触れず、血圧も測定不能になり、意識を消失し、3分以上続くと脳の機能も停止します。心室頻拍、心室細動をきたす心臓の病気としては急性心筋梗塞や高度の狭心症などの虚血性心疾患が最も多く、その他としては心筋症、心筋炎、弁膜症などでもこの重篤な不整脈が起ることがあります。また心室細動は心電図でブルガダ型の心電図を示す疾患(ブルガダ症候群)、QT延長(QT延長症候群)の所見がある場合にも生じる危険が高いことが分かっています。これらの不整脈に対しては薬物治療が行なわれますが、心室頻拍、心室細動は1度でも起れば致命的となる不整脈ですから、薬物治療と共に植込み型除細動器の植込みが勧められます。

植込み型除細動器は人工ペースメーカーより少し大きな除細動器本体と、右心室へ挿入する電極からなります。除細動の機能とともにペースメーカーの機能を持っており、必要に応じて右心房へ電極を挿入して、心房、心室を同期させたペーシングを行なうこともでき、上室性不整脈との鑑別することもある程度は可能です。除細動器本体はペースメーカーと同じように前胸部の皮下、または筋肉下に植込まれます。心室細動、心室頻拍などの不整脈が起きた時には、除細動器が自動的に診断して除細動します。

東北大学病院では植込み型除細動器の使用が保険償還される以前の1994年から積極的に植込み型除細動による治療を行なっており、現在までに約70例の植込みを行なっています。植込み手術による合併症は殆どなく、植込み時に全例で除細動器の治療効果が確認されています。植込み型除細動器の植込みは次の場合に植込みが勧められています。

心室細動が確認されている場合

持続性心室頻拍があり、失神を伴うもの、心臓の機能が低下しているもの、および副作用のため心室頻拍を治療する薬剤を使用できない場合です。持続性心室頻拍でも心機能が良好で心室頻拍を抑制する有効な薬剤が使用できるような場合は、やや意見が分かれますが、このような場合も積極的に植込んだ方が良いでしょう。また、最近では心室頻拍に対してカテーテルでアブレーションする治療法も確立していますが、カテーテルアブレーションで心室頻拍を誘発できなくなった場合でも、除細動器を植込んでいる施設もあります。

以上、不整脈の治療について概説しました。不整脈の外科治療は常に、内科的な治療と同時に進められなければなりません。上記のような治療を受けるに際しては、内科、外科の連携により不整脈治療が行なわれている施設を選択することをお勧めします。