短期交換留学inパリ|松尾 諭志


2017年2月から3月にかけて、約6週間、AEPC-JSPCCS短期交換留学生としてパリのNecker-Enfants Malades Hospitalで研修を行いましたので、ご報告します。

この短期留学プログラムは日本小児循環器学会とヨーロッパ小児循環器学会間で短期間の交換留学を毎年行っています。今回、応募したところ、外科系は私一人のみの応募だったようで、応募してからすぐに連絡がきて、短期留学できる運びとなりました。ヨーロッパのどこで研修するかはAEPC側で決定されるようで、今回はパリのNecker-Enfants Malades Hospitalに行くことになりました。

パリでのテロ未遂があった日にパリに旅立つこととなり、若干の不安がある中での渡仏でした。しかし、研修先であるNecker-Enfants Malades Hospitalのある地区は治安が非常に良い場所で、特に毎日の通学には不安を感じませんでした。病院には専用のレジデントハウスはないため、徒歩圏内で行けるアパートを借りて、通っていました。

Necker-Enfants Malades Hospitalはパリ大学付属の小児病院です。また、世界最古の小児病院で、歴史ある病院です。敷地は非常に広く、建物が多数あります。写真に示す建物が小児循環器、心臓血管外科の医局や手術室、病棟があり、非常にモダンな作りになっています。その4階のフロアに医局や手術室、病棟、ICUが全てあり、まとまっていました。

手術はほぼ毎日(平日のみ)4例行っており、手術室は心臓外科専用に2つありそれぞれ縦に2例で行っていました。手術はstuff surgeonが4人いて全ての症例をその4人が執刀しています。Staff surgeon以外には、レジデント1名やインターン1名、非常勤1名いて、それ以外に無報酬で研修する医師が数人いました。国籍は様々でモザンピークやイスラエル、ヨルダンなど多国籍の医師が集まっていました。日本の先生も一人いらして、その先生も無報酬で1年研修していました。

疾患はASD、VSDなどの単純心奇形から、arterial switchやmodified Konno, Nikaidoなどの手術まで非常にバラエティ豊富でした。もちろん、午前、午後と手術を1件ずつこなさなければなりませんので、手術は非常に速く、また洗練されている印象でした。例えば、TGAのJatene手術は早いと2時間半で終わってしまい、最初は唖然としたことを覚えています。最近は心不全にも力を入れていて、VADや心移植も積極的に行っているようです。私が研修している間にも心移植が1件ありました。行く前には自分自身の感染症チェックなどなかったので、術野に入ることなく、外で見学するのみだと思っていましたが、入ってみると、研修2日目には第二助手で参加することができ、慣れてきたら、第一助手を任せられることも数件あり、このような素晴らしい手術を目の前で手を動かしながら経験できたことは貴重な体験でした。

術前、術後管理は基本的には集中治療医や小児循環器科医師が診ており、心臓血管外科医師は手術に集中できる環境にあります。術後の抜管は集中治療医や小児循環器科医師が、ドレーン抜去等は看護師が行っています。症例数も年間1000 例近くあることもあり、小児循環器科医師は30人近くいて日本では考えられない程でした。また、その中で病棟、外来、ICUに別れて配属されており、分業が進んでいました。

また毎朝、循環器科医師、麻酔科を含めたミーティングがあり、術後患者を含めた病棟やICU患者の申し送りやその日に行う手術のプレゼンテーションがあります。火曜日の夕方からは術前患者のカンファレンスもあります。全てフランス語で行われるため、完全な把握は残念ながら難しかったです。

フランス語となりますと、言葉の問題は研修前から想像でき、短い期間ながらフランス語を勉強して行きましたが、残念ながら全く歯が立たず。ミーティング中は全てフランス語で、フランス語で書かれたカルテをにらめっこしながら、エコー動画などからどういった疾患なのかを把握して、手術に参加していました。手術もsurgeonによっては英語使用が禁止ということもありましたが、概ね看護師含めて英語で話してくれるので、コミュニケーションを取ることができました。
 日本とフランス間の文化の違いで気になった点として印象を受けたのは、手術室の更衣室は男女共用で、また手術室のトイレも更衣室の奥にあったりで、ちょっと目のやり場に困るケースもありました。昼食は手術室のラウンジで食べるわけですが、誰かの誕生日の時は、日本と違い、お祝いされる側がケーキを用意して振る舞い、日頃の感謝を示すそうです。

フランスは基本的に休みをしっかり取る環境が整っているようで、土日の手術はほぼ皆無でした。というわけで土日は美術館や大聖堂巡り、そして、イギリスにも2泊3日で弾丸旅行したりと週末も充実していました。

6週間と短い期間ではありましたが、想像以上に充実していてとても良い刺激を受けましたし、今思うと少しは成長できたかなと思える研修だったと思います。臨床留学となると、なかなか門戸が狭いかと思いますが、もう一度Neckerで研修できればと今はフランス語を勉強しているところです。

最後になりましたが、このような研修する機会を与えていただき、齋木先生をはじめ、崔先生、小西先生にこの場を借りて感謝申し上げます。