アメリカ人工臓器学会(ASAIO)に参加して|秋山 正年


2015年6月24日~29日にアメリカイリノイ州シカゴで開催されたASAIOに参加しました。2年前にもシカゴ開催でしたが、この季節のシカゴは1年で最も過ごしやすいこともあり、楽しみに参加しました。

ASAIOの会場はHiltonで、歴史のある建物で、世界大戦中は中西部地域に住む海外に出発する兵士たちの最期の宿泊先だったようです。
発表は今回もポスタープレゼンテーションでした。内容は肥大型心筋症に対する補助人工心臓治療成績(拡張型心筋症などとの比較)についてでした。欧米に比べ、本邦では肥大型心筋症の患者が移植待機患者に占める割合が高いと思います。また国内の主要な移植施設に比べても当院では肥大型心筋症、しかもIntermacs Profile 1の状態で治療を要する患者が多いと思っており、今回このような発表となりました。結論では重篤化した(Intermacs Profile 1)の肥大型心筋症の成績は悪いということで、この内容については今後東北地方の循環器科医に情報提供し、より早期の段階で紹介していただく方向で考えています。

ここ数年、毎年ASAIOには参加してきましたが、今年もやはり短期あるいは中期使用の体外式デバイスについての話、また右心不全(両心不全)に対する治療戦略という話が多かったです。たしかにProfile 3などへの植込み型VAD装着はすでに安定した成績を出せるところまで時代は進んでいると思います。当院におけるProfile 3の患者の術後経過をみても、通常の開心術後とそれほど変わらないところまで成熟していると自分なりには考えています。一方でProfile 1は米国でも難渋していますが、やはり植込み型VADの敷居が日本よりずっと低いため、我々が現場で感じるような苦しさはないのだろうなと、うらやましく思います。ただ、デバイスの選択や使用方法については学ぶことは多く、今後の参考になると思いました。

両心不全に対する治療方針として、Thoratec PVAD、HeartMateII+CentriMag、TAH(SynCardia)が比較されていました。最近Thoratec PVADは製造中止が決定されており、現在の選択肢としては残りの2つということになります。CentriMagを使用するため、この場合在宅治療ができませんが、両者の心臓移植到達率を比較するとHeartMateII+CentriMagの方が優れていました。両心不全にはTAHが魅力的ではありますが、まだまだ課題が多いということなのでしょう。

さて、今年のASAIOで最も印象に残った内容は、Transcutaneous Energy Transfer (TETS)です。もう10年近く前の話になってしまいますが、私がCleveland Clinicで研究していたころのTETSとは全く異なるメカニズムになっており、かなり現実味を帯びていると思います。この分野でTETSの研究が進む最大の理由は、ドライブライントラブルを回避できることにあります。当院でもVAD患者の再入院の原因最多はドライブライン感染です。

図に示すような患者に埋め込まれたcoilと室内のあちこちに配置されたPower coilを介してwirelessに電源供給ができるというシステムです。このシステムには、電気自動車の電源供給をwirelessで行うシステムが応用されており、電源供給という点ではすでに証明済みであり、あとは体内に埋め込まれるcoilなどの安全性、耐久性などが証明できれば、実現化するのはそれほど遠い未来ではないと期待しています。

最後に学会以外ですが、2年前に来たばかりのシカゴであったこと、天候が思わしくなかったこともあり、ほとんどの時間を学会会場とホテルで過ごしていましたが、最終日に快晴となったため、シカゴで有名なスカイライン(ビル群が作り出す風景)を見るためにミシガン湖沿いのジョギングコースに行ってみました。日差しは強いものの湿度が低いため全く汗が出ません。夏だけならシカゴに住んでもいいかなと思いました。

ASAIOの魅力は、臨床と基礎の発表を見たり聞いたりできることですが、今回のようにTETSの進歩をみると、米国人は両者で協力して新しい技術や治療法を考えていくことが上手なのだなと思いました。今年(2016サンフランシスコ)は残念ながら演題を出せず参加はかないませんが、来年は再度参加できるよう今からテーマを考えたいと思います。