齋木佳克教授からのご挨拶

2年にわたるコロナ禍にあって

このホームページを更新している令和3年10月現在、COVID-19感染症蔓延の勢いは急速に弱まってきています。その事実は、私たち心臓血管外科医とナースプラクティショナーが毎日就労している集中治療室における状況を見渡すことで、容易に認識できます。このまま一気にコロナ禍が終息することを真摯に願うばかりです。これまで、厳しいICU運営事情のため幾度となく予定手術を延期せざるを得なくなり、また、普段であれば迅速に受け入れ可能である緊急患者をお断りすることが幾度もありました。そのためにご迷惑をお掛けした患者さんとご家族の皆様に改めてお詫びをし、また、ご辛抱くださった方々のお心に感謝いたします。 その一方で、東北大学心臓血管外科では、様々な状況から当院でしか救命できない心臓疾患に対する外科治療には責任と使命感をもって継続して取り組んでまいりました。具体例としてコロナ禍にあっても重症心不全に対する究極の治療である心臓移植手術を安全に複数回実施してまいりました。また、感染に起因する難治性心臓弁膜および大血管の構造的破壊をきたした患者の方々のために県境を跨いででも受け入れてまいりました。これらの成果は、どのような状況下にあっても冷静に、かつ、情熱的に自分たちの職責を粛々と完遂したスタッフ全員のチーム力によって成し遂げられたものと信じます。 日常の診療活動を完全に近い形で取り戻しつつある今、私たちスタッフ一同は一丸となって心臓血管外科医療の継続的発展のために力を尽くしてまいります。そして、東日本大震災を経験した東北大学病院のスローガンである、「これからも共に生きる」、を実践してまいります。

東北大学心臓血管外科学分野のクレド(理念と信条)

私たちが診療科として掲げてきた目標は、「最も安全で確実な医療と最新の科学技術を応用した医療の確立」であります。古くから「医は仁術なり」という言葉があり、医は人命を救う博愛の道とされています。その一方で、“人”術という、血も通い感情も作用している生身の人間が、生物学的多様性に富む人間を対象として施している行為であるという側面もあります。そこには医療の不確実性という要素が必然的に含まれてきます。そのことを直視した上で、より確実性の高い治療計画を構築する必要があります。急性期(手術直後)における理想的結果と長期遠隔期(慢性期)における理想的結果の両方の要素を勘案し、個々の患者病態に応じた治療法を選択することが肝要と考えています。 また、外科学の一つの分野として教室のモットーとしているところは、「優しくて力持ち」という信条です。これはどのような局面であっても、常に患者さんとそのご家族、さらに、協働する医療チームのスタッフ皆に対して、優しい心をもって接することができる博愛の精神を備えていること。その一方で、頼りにされる高度な技術と深い知識、難しい局面で発揮できる創造力を備えている外科医を目指すということです。実は、この精神は初代教授の堀内藤吾先生が残された「鬼手仏心」の精神と重なっています。鬼才に備わったような手(技術)で、仏のような心をもって手術に臨む、という精神かと思います。誰しも余裕を失った局面では、そのような心の状態を保つのは容易ではなく、また、常に知識と技術を磨いていなければ、心の余裕も生まれてこないとものと考えます。困難に正面から立ち向かう強さに加え、苦しい状況にある人々に寄り添う優しさを備えた心臓外科医を一人でも多く育てたいと考えています。 人を育てる教室としての目標は、構成員のそれぞれが自己の可能性を最大化できる過程を促進する組織体とすることです。人間は成長し続けることができる生き物と信じます。その原動力は好奇心と向上心にあるかと思います。情熱も必要ですが、時として情熱が冷めつつあっても常に疑問を持つ好奇心、昨日より一歩成長した今日の自分を感じたいと思う向上心があれば、自己の可能性を最大化できると思うのです。そのことで人生の喜びを享受できることに繋がるでしょう。心臓血管外科医療に携わることで各人が充実した人生を送れるような教室を目指しています。