就任時挨拶|齋木 佳克

平成22年11月1日から東北大学大学院医学系研究科・外科病態学講座・心臓血管外科学分野の教授を拝命いたしましたので、ご挨拶申し上げます。

心臓血管外科の実診療の歴史は本邦では約50年でありますが、この間、本学では初代堀内藤吾教授、第二代毛利 平教授、第三代田林晄一教授が先駆的な仕事を成し遂げられ、日本の心臓大血管外科学の発展に寄与されました。さらに、東北地方を中心としたこの医療圏において心臓・大血管疾患領域での確固たる治療体系を築き上げられました。この度、私が第四代教授を拝命し、先達の仕事の継承と発展を付託されたことになります。過去50年間に心臓血管外科治療技術は格段の進歩を遂げ、医療施行者の構成も成熟してきたわけですが、今後も緩やかに、そして、時に劇的に変化を遂げてゆくものと思われます。保険制度を始めとした医療施策の改変や、専門医制度の拡充と厳格化等の時代の要請応じた変化が予想されますが、それらに柔軟に対応し未来の医療体制の確立に努力する必要があると思います。心臓・大血管疾患患者とその家族の方々はもとより、この医療圏で生活されるすべての皆様が安心して暮らしを営める社会を形成する、その一翼を担えるよう鋭意努力してまいりたいと考えます。

医療崩壊という言葉が叫ばれて久しくなります。それには医療保険制度の限界、医療訴訟問題の深刻化、医師育成制度の不安定化などが関与していますが、大学という教育機関に身を置くものとして、とりわけ専門医育成の問題に関しては広く責任を負う必要があると考えます。旧態依然とした医局制度が、かつて悪の元凶のように言われたこともありました。その後、初期研修制度が大幅に変わって全く医局との結びつきを持たなくなる卒業生も増加しました。そして現在、医局に帰属しない、病院のスタッフにもなれない、専門医資格取得もままならない、いわゆるレジデント難民が出現しているといいます。そのような状況になり、これまで医局制度が支えてきた医療構造も確かにあったということが再認識されているようです。医局制度そのものは全肯定されるべきものでも、全否定されるべきものでもないと感じます。変化する時代の要請に即応できなかった部分があったと考えます。

北米には日本の医局制度とは全く異なった専門医育成プログラムが敷かれています。わが国との間の保険制度の違いを無視してその方策を直輸入しても、全く機能しないと思われます。しかしながら、優れていると思われるプログラムの本質を理解し、それらを取り入れつつ日本型の専門医養成プログラムを築き上げることは必要で、柔軟性を備えた医局体制を持つことで、次世代を担う医師を育成し未来の医療を支えたいと思っております。